イベントレポート - 「文化学科」開設記念連続講座
文化学科の設置を記念し、『文化資源のつなぎ方~デジタルアーカイブの可能性~』と題した連続講座を企画しました。
研究者や技術者、企業や自治体の方々をお招きし、広く公開しながら考える講座を3回連続シリーズで行いました。
過去の学習会のようす
公開学習会③「岐路に立つ長野の文化資源」のようす
講師:高野明彦 氏(国立情報学研究所 教授)
加茂竜一 氏(凸版印刷株式会社文化事業推進本部担当部長)
平賀研也 氏(県立長野図書館 館長)
日時:平成30年6月30日(土曜日)、14時~16時
場所:長野市生涯学習センター、TOiGO4階 大学習2
「文化学科」の設置を記念して3回連続講座『デジタルアーカイブの可能性』が企画され、最後の講座が6月末に「岐路に立つ長野の文化資源」と題して開催されました。この講座は、公開シンポジウム形式で行われ、国立情報学研究所の高野教授と凸版印刷株式会社文化事業推進本部の加茂氏を講師にお迎えし、日本における最新のデジタルアーカイブの取り組みについてお話しいただいました。その後、お2人の講師に加えて、県立長野図書館の平賀館長と文化学科の小泉学科長の4名で「長野の文化資源を人々に、未来にどのように繋げていけるか」をテーマにディスカッションしました。
加茂氏は、デジタルアーカイブ技術を用いて数々の文化財保存や保護のプロジェクトに関わってこられた方です。ご講演では、そうしたこれまでの多様な取り組みが写真や映像により紹介されました。バチカンの古文書、鎌倉の大仏、日光東照宮の陽明門、そしてペルーの世界遺産であるマチュピチュといった文化財がデジタル技術によって記録される様子をご説明いただきました。中でもドローンを用いて行った鎌倉大仏の破損状況調査やマチュピチュのデジタル化に使われている最新技術に、私たちは目を見張り、感動しました。そうしたプロジェクトでは、文系出身のスタッフも少なくないそうです。
加茂氏のお話しに続いて、高野氏にはデジタル情報をどのように活用するかについてお話しいただきました。高野氏は現在、内閣府が推進する「デジタルアーカイブジャパン」構築事業に実務者として関わっておられます。「デジタルアーカイブジャパン」は、文化財、メディア芸術、書籍、放送番組、そして地域博物館や美術館をつないでネットワーク化し、インバウンドの促進や日本研究の深化に活用することを目指しているそうです。この取り組みは、日本の多様な文化的資産を次世代に継承するため、さらに文化的資産を知的資産として集約することで、それらの利活用を促進するためのものだということを学びました。その他、4つの国立美術館の所蔵作品と関連図書の検索サイト「想」IMAGINE、お茶ノ水界隈のまち歩き情報とオリジナル地図を作成できる「お茶ナビゲート」を、デジタル情報の利活用の事例としてご紹介いただきました。デジタルコンテンツの情報化は、私たちの想像力を広げ、これまでにない世界を創造可能することを学びました。
後半のディスカッションでは、デジタルアーカイブとは「目的ではなく結果である」というお話しから、大学生が身の回りの文化をデジタル化していくことの有益性が指摘されました。文化学科の教育活動の中で、地域にある文化をスマホなどで簡単に画像化して集積することは可能です。歴史的文化資源だけでなく、そうした日常文化の集積は、将来的に価値あるものとなるというご指摘もありました。また蔵などに埋もれている文化資源を、大学生と高校生が協働して記録する活動の可能性についても話し合われました。
この度の連続講座を通じて、清泉女学院大学が地域の文化資源に取り組む拠点として活動していくことの意義が見えてきました。文化学科に集まってきた学生たちと共に、人々の暮らしや地域文化の素晴らしさを発見し、未来につなげていく方法を模索していきたいと思います。
公開学習会①「博物館・美術館におけるデジタルアーカイブの今」のようす
講師:一ノ瀬修一氏(アイメジャー株式会社 代表取締役)
日時:平成30年4月28日(土曜日)、14時~16時
場所:清泉女学院大学キャンパス
第1回目は、松本市にあるアイメジャー株式会社の代表取締役の一ノ瀬修一氏をお招きし、「博物館・美術館におけるデジタルアーカイブの今」というテーマで大学キャンパスにて開催しました。参加者は、図書館や美術館などで文化財の保存に取り組まれている方をはじめ、市民の方、教員、学生など15名ほどでした。一ノ瀬氏は、非接触式の大型正射投影イメージスキャナ(オルソスキャナ)による文化資源のデジタル化のエキスパートとしてご活躍されています。高解像度の画像データ化による絵画や古文書の複製と保存の技術は、安曇野ちひろ美術館などで使われています。
ご講演の前半は、デジタルアーカイブに関する基本的知識、デジタルアーキビストとう資格、さらに学芸員の仕事についてお話いただきました。学芸員の有資格者数に対して、学芸員の職が少ない状況について、生涯学習活動として有資格者を含む市民が博物館を支えていくことの必要性を説明していただきました。また「何故デジタルなのか」というお話の中で、人間の五感(目、耳、手、身体など)の記録がアナログからデジタル化されてきた歴史に関するご考察は大変興味深いものでした。動画が、映画フィルムからビデオテープカメラ、そしてデジタルカメラへと変化してきたように、今や多くのことでデジタル化が進んでいるのです。さらに、インターネットが発明されると、人と人が繋がれてデジタルデータが交換される世の中になったことを知りました。
後半は、デジタル図書館などにみるデジタル情報のネットワーク化についてお話しいただきました。インターネットの普及は、どこでも、だれでも、必要な情報に獲得し、学習する機会のネットワークを作り上げました。2005年にEUの援助を受けて“Europeana”というヨーロッパの文化遺産にオンラインでアクセスできるデジタル図書館についてご紹介いただきました。その解像度のすばらしさに驚くとともに、デジタルデータを効率的に管理するシステムについて知ることができました。“Europeana”で取り組まれている、著作物に関するクリエイティブ・コモンズや継続性の工夫は、デジタルアーカイブを考えていくうえで重要であるとわかりました。
最後に、デジタルカメラとイメージスキャナの違いについて教えいただき、オルソスキャナについてご説明いただきました。オルソ画像によるスキャニングの特徴として、剣山を例にあげて、真上から撮影したオルソ画像をデジタルカメラの画像を比較すると、その再現性の違いがはっきりみられました。さらに、3次元の土器をスキャンする土器用オルソスキャナの仕組みについてご説明いただきました。講演会場にはデモ用のモニターが設置されており、土器、古地図、浮世絵などの実際の画像をみることができ、肉眼では見えないような微細なところまで読み取る技術の高さを実感しました。
今回の一ノ瀬氏のお話を通して、デジタルアーカイブは、原資料の代わりにデジタル化した資料を提供することにより、原資料をより良い状態のままで保存するだけでなく、再現性の高い資料によりオリジナルに触れた時の感動を伝えることができることを学ぶことができました。さらに、デジタル化した資料を使ってコンテンツとそれを求める人との出会いをプロデュースすることの可能性をお教えいただきました。
引き続き次回の講座にて、デジタルアーカイブの可能性を探りつつ、大学としての取り組みを考えていきたいと思います。
資料
- 岡本真、柳与志夫:デジタルアーカイプとは何か? 理論と実践、勉誠出版(2015)
- 時実象一、デジタル・アーカイプの最前線、講談社 BLUE BACKS(2015)
- 国立国会図書館資料デジタル化の手引 2017年度版
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/digitalguide.html - https://creativecommons.org
- 岡庭義行:博物館法改正と学芸員養成(2012)、帯広大谷短期大学紀要
- 福山樹里:Europeanaのメタデータ:デジタルアーカイブの連携の基盤、情報の科学と技術、67巻2号、pp54-60(2017)
- Johannes Vermeer Girl with a Pearl Earring
https://www.europeana.eu/portal/en - Google Art & Culture Project
https://artsandculture.google.com/?hl=ja - 文化道産オンライン
http://bunka.nii.ac.jp
公開学習会②「文化資源のつなぎ方」のようす
講師:一ノ瀬修一 氏(アイメジャー株式会社 代表取締役)
吉田雅光 氏 (株式会社プラルト)
日時:平成30年5月26日(土曜日)、14時~16時
場所:竹風堂3階、大門ホール
文化学科開設記念公開学習会の第2回目「文化資源のつなぎ方」が、善光寺近くにある竹風堂大門ホールで開催されました。当日は5月のさわやかな晴天の中、文化学科1年生を含む30名ほどの方々にお集まりいただき、充実した時間を過ごすことができました。今回は、前回に引き続いて一ノ瀬修一氏に講師をお願いし、加えて吉田雅光氏をお迎えして、最新の文化資料のデジタル化についてお2人からお話しを伺いました。
デジタルアーカイブは、文化学科が目指している文化を発見し、次世代に繋げ、社会的要請の中で新たに創造するという試みにおいて有効な方法です。文化資源の保存や展示に加えて、生涯学習教育の視点からもその活用を考えることは重要であると考えられます。そこで本公開学習会は、デジタルアーカイブの最新技術とその活用の現状について学び、大学としての関わり方を模索することを目的として企画されました。
第2回目の学習会では、第1回目に引き続き一ノ瀬氏より2次元だけでなく3次元の文化財のデジタル化についてお話しいただきました。本物に非常に近い状態を実現するスキャニングの技術に驚かされたと共に、そこに至った技術者の探究心に感動しました。まさにデジタル技術は人間が創り出した現代文化であり、それによってもたらされる文化資源と人々のこれからの関わり方について考える機会をいただきました。
続いて吉田氏には、まず私たちの暮らしの中でのデジタルアーカイブの可能性についてお話しいただきました。インスタグラムやフェイスブックなどにみる写真や動画といった日常のデジタル化を取り上げ、デジタルアーカイブが私たちの身近なものとなっている状況についてお話しいただきました。そのような美術館や博物館とは違うデジタルデータの活用は、自分史の新しい形を作り出し、人と人をつなぐ有効なコミュニケーションの場となっていることを学びました。さらに、美術品の複製画製作のお話しを伺いました。2次元の紙の上に光と影によって作り出される3次元的世界に驚かせられました。上田にある無言館の事例では、複製画が人々に美術作品の感動を生み、身近な文化資源として親しまれていることを知りました。ほかにも、美術館の学芸員さんによる作品紹介の動画コンテンツなど、デジタル化された美術品の新しい使い方をご紹介いただいました。
第2回目の学習会では、特に美術品のデジタル化のお話しを伺いました。学芸員資格課程をもつ文化学科にとって、文化資源にかかわるということは「感動をプロデュ―スする」ということ、そしてそれが人と人と結びつけることに繋がっていくという貴重な気づきがありました。
第3回目は、文化のアーカイブ化の可能性についてその第一人者の方々からお話を伺い、長野の文化資源をどのように人々に、未来につないでいけるかを考えてみたいと思います。文化は、美術品以外にも芸能、衣食住、宗教、風習など多様です。長野にある文化の保存と継承は、人口減少、少子高齢化の中で深刻な問題となっています。地域の文化は、そこに住まう人々のアイデンティティであり、財産です。また、私達の日常生活そのものも文化であり、生活の豊かさと文化の豊かさはつながっています。アーカイブを通して、生活が豊かになること、楽しくなることは、地域社会の力になると考えます。
最終回では、長野で何ができるか、大学に何ができるかについてパネラーの方々とディスカッションをしてみたいと思っています。長野県の文化に着目して、長野にある多様な文化にについて、現代的な活用方法や次世代へのつなぎかたを、デジタルアーカイブの可能性から模索していきます。
文化資源のつなぎ方~デジタルアーカイブの可能性~
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公開学習会①
「博物館・美術館におけるデジタルアーカイブの今」※ 終了しました ※
講師
一ノ瀬修一 氏(アイメジャー株式会社)
日時
4/28(土)14時~16時
場所
清泉女学院大学 F206教室
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公開学習会②
「文化資源がつくり出すつながり」※ 終了しました ※
ゲスト
一ノ瀬修一 氏(アイメジャー株式会社)
吉田雅光 氏(株式会社プラルト)日時
5/26(土)14時~16時
場所
竹風堂 大門ホール
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公開学習会③
「岐路に立つ長野の文化資源」※ 終了しました ※
ゲスト予定者
高野明彦 氏(国立情報学研究所教授)
加茂竜一 氏(凸版印刷(株)文化事業推進本部担当部長)
平賀研也 氏(県立長野図書館 館長)日時
6/30(土)14時~16時
場所
長野市生涯学習センター TOiGO 4階・大学習室2
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