清泉女学院大学 清泉女学院短期大学

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学長メッセージ - 2018年度 卒業式式辞

学長 芝山 豊

ケアの文化を支える 別品の大学

人類を意味するラテン語ホモ・サピエンス(知恵の人)が示す通り、人の特性は知性にあります。人は、また、その一生を通じて、ケアし、ケアされる存在として、ホモ・クーランス(ケアの人)とも呼ばれます。互いの痛みを感じ、互いに関わることを通して、人は真の幸福を手にいれるのです。清泉女学院大学・短期大学が「こころを育てる」大学を標榜する意味もそこにあります。

スペインに源をもつ聖心侍女修道会のシスターたちが長野に女性教育の種を蒔いて70余年が過ぎました。本学は、いま、その精神を引継ぎ、甲信越北陸地域唯一のカトリック高等教育機関として、次世代の世界と地域のケアの文化を支える知の拠点をめざし、「清泉百年プロジェクト」を展開中です。既存学部学科のアップデート、取得資格充実や文化学科新設置に続き、2019年4月からの看護学部設置への準備も着々と進めています。

地域の暮らしに深く根をおろし、学知と本当の優しさに裏打ちされた知恵によってケアの文化を支え、世界をより善いものに変えていく。そんな人々を世に送り出す大学として、多くの卒業生と支援者に支えられ、小規模校ながら、「かたち」のみの格付けを超えた、活力と気品に満ちた、別格、別品の大学であり続けたいと思います。

みなさまが清泉での学びに加わられる日を楽しみにお待ちしております。

2018年度 卒業式 式辞

卒業生の皆さん、おめでとうございます。ご多忙の中、ご列席いただきましたご来賓の皆さまと、ここに集う本学教職員一同とともに、心よりお祝いを申し上げます。
本日の卒業生の皆さんは、わたくしが学長として迎え入れ、学長として送りだす最後の学年ですから、この式には感慨ひとしおのものがあります。

卒業生の皆さんには、学長講話の折、問題と神秘について、お話をしましたね。覚えておらえるでしょうか?
問題というのは、例えば、速さを競う運動選手が如何にタイムをあげることができるかを問うような類のものです。その問いには、筋力アップの方法を科学的に追及することで、何某かの合理的な答えが得られます。つまり、「問題」とは必ず答えがある問いのことです。それに対して、もうひとつの問いは、例えば、金メダル獲得を嘱望された十代の天才アスリートが突然、難病を告知されるような場合に起こる問いです。「何故、私が?」「何故、今?」、「何故、私の身ではなく、最愛の娘に難儀が降りかかるのか?」等と、人は問わざるを得ないのです。しかし、そこには、納得し得る合理的な正解というべき答えはみつかりません。わたしたちが生きてこの世にあること、即ち、存在は、問うても、問うても、答えのでない問い、「神秘」に属する事柄です。そんな耐え難い、内臓が捩れるような問いに直面しながら、「神は乗り越えられない試練は与えない」と毅然たる覚悟を示すことができるとしたら、その根拠は一体どこにあるのでしょう。
その根拠は、二千年近く前に書かれたギリシャ語の手紙の中にあります。「あなたがたを襲った試練で、人間として耐えられないようなものはなかったはずです。神は真実な方です。あなたがたを耐えられないような試練に遭わせることはなさらず、試練と共に、それに耐えられるよう、逃れる道をも備えていてくださいます。(コリントの信徒への手紙一/ 10章 13節)」迫害者から宣教者へ変貌を遂げたパウロが語るこの言葉の中に、「愛としての神」と人間の関係、即ち、存在についての、本質的理解へのヒントが隠されているように思います。
清泉女学院は、ただの女子大ではなく、カトリックの女子高等教育機関です。その学びの中心にあるものは、一言で言えば、「愛」です。キリシタン時代、新約聖書の言葉であるギリシャ語のアガペーは、誤解を招きやすい「愛」ではなく、「御大切」と訳されました。愛は「大切、大事にする」こころと言った方がたしかに分かりやすいでしょう。「敵を愛せ」と言われても、敵を好きになることは難しい。でも、たとえ、敵であっても、相手の存在を認め、その存在を大事にすることはできる。他者を愛することは、執着することではなく、大切にすることです。在学中、繰り返し学んだように、福音の最も重要なメッセージは、例外なく、すべての人、一人一人が、神から愛される、つまり、大事にされる、大切なかけがえのない存在であるということです。
これからの人生では、予期せぬ不運に見舞われることもあるでしょう。考え抜いた正しい行いをしたために、かえって、不利益を蒙り、謂われなき非難を浴びるようなことが起こるでしょう。あてにした誰かに裏切られ、全世界から見放されたように思える時があるかもしれません。そんな孤立無援の絶望的状況に陥ることがあっても、大丈夫です。思い出して下さい。清泉の校舎に刻まれたラテン語の句を。たとえ、世界中があなたを無視したとしても、あなたをずっと見守っている、確かな存在があるのです。本学の校舎に刻まれている DOMINUS TECUM 「神はあなたとともにいる」とは、そういう意味なのです。
「何故、いま、自分が生かされているのか」、その不思議を思い、どんな時も、SURSUM CORDA 心を高くあげて、すべての過ぎゆくものの奥にあって、変わることのないなにかへ思いをはせて下さい。
そして、今月2日に竣工したJR長野駅東口の看護学部校舎、ピラール館には、本学が大切にしたいもうひとつの言葉が掲げられています。GAUDETE ET EXSULTATE ガウデーテ・エト・エクスルターテ。『喜びに喜べ』と訳されているこの言葉は、教皇フランシスコが2018年春に使徒的勧告のタイトルとされたもので、マタイ福音書5章からとられたものです。
「自分の殻を破りなさい」と励ます教皇のメッセージと、短期大学設置の折、ここ上野キャンパス定礎に刻まれた文字「よろこび」、そして新校舎の定礎に刻まれた「すべての命のために」とが、互いに響きあいます。   《こころを高くあげなさい。神はあなたと共におられる。(その神からの力をうけるのだから)さぁ、大いに喜びなさい》という三つの句がひとつづきのものとなり、「他者のために生きる」という本学建学の精神のエッセンスを示しています。ここ、上野のキャンパスにおいて、他者とのかかわりの中で、それぞれのこころを育てたあなたがたの笑顔が、この深く傷ついた世界を癒し、平和をつくりだしていくのです。
二十一世紀の最も広い意味での「ケアの文化」を支え、世界をより善いものに変える皆さんを、本日、社会に送りだせることは、私たち清泉の教職員にとって、大いなる喜びであり、誇りです。どうか、これからも、清泉の卒業生として、本学の未来を支えて下さい。
今日、ここに集まったわたしたちが、同じ瞬間(とき)の中で共に在ることを喜びあい、卒業生のみなさんの末長いご多幸と、社会でのご活躍をお祈りするとともに、本日、御列席のご家族、関係者の皆様へ、これまで本学にいただいた暖かいご支援を、深く感謝申しあげて、私の式辞の結びと致します。
ありがとうございました。

2019年3月16日
学長 芝山 豊

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