清泉女学院大学 清泉女学院短期大学

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学長メッセージ - 2019年度 入学式式辞

学長 山内宏太朗
学長 山内宏太朗

他者のために、地域のために、社会のために

「人間は、一人ひとりが、かけがえのない、他の誰にもとって代わることのできない存在であること」。本学は、その実現のために、「存在の価値を見出し、その存在にふさわしい人間になることを手助けすること」を基本として、この長野の地で教育を提供してきました。設立母体である「聖心侍女修道会」の「侍女」には、この会の使命と精神が的確に表わされています。すべては他者のために…。そこには自由な雰囲気、他者との信頼関係を築き、一人ひとりを大切にし、その人たちのために生きようとする精神が流れています。これは、カトリック教育の軸であり、学生のみなさまにも是非身につけていただきたいと願っている大切な価値です。

本学は、この精神を礎とし、甲信越北陸唯一のカトリック高等教育機関として、次世代へとつなぐために、現在「清泉百年プロジェクト」を展開しています。清泉女学院を学びの場として、この長野の地から他者のために、地域のために、社会のために奉仕できる教育を提供していきたいと思っています。

2019年度 入学式 式辞

この佳き春の日に、晴れてご入学の日を迎えられた新入生の皆さん、誠におめでとうございます。
皆さんは今、大学・短期大学に進学され、自分の選んだ道として、学問を学び始められます。今日から始まる大学生活は、今ここで皆さんお一人お一人が抱いている、自分の見いだした意味と自分自身の価値の実現のための日々だということを、はっきりと意識していただきたいと思っています。
本学の教育の精神は、今から約一四〇年前、設立母体であるカトリックの聖心侍女修道会創立時に遡ります。「神の尊前(みまえ)に、清く正しく、愛深く」、カトリック教会の聖人、聖ラファエラ・マリアの精神です。キリストの教えを根底におく教育を通して、「人間は、一人ひとりがかけがえのない、他の誰にとっても代わることのできない存在であり、その存在の価値を見出し、その存在にふさわしい人間になることを手助けすること」を基本として教育を提供していきたいと思っています。
そこで、私自身が本学の教育の中で大切にしたいこと、また、皆さんにぜひ身につけていただきたいと願っている三つのまなざしをご紹介します。
一つは、「自分を知るためのまなざし」です。すべての人は神の愛により創られ、一人ひとり、その存在の固有の意味とミッションを有しています。いのちの尊さ、そして「自分」という存在の意味とミッションを知り、自分に与えられた能力を最大限に生かし、自分の選択した人生、すなわち、「自分を賭ける」意味と固有の価値の実現のために生きるには、まず、自分自身を知るためのまなざしが必要です。
二つ目は、「他者を大切するまなざし」です。自分を知ることは、自己と自己をとりかこむ一切のものの中に真理を見出させ、豊かな人間性を育み、自分の周りの人びとも、自分と同じくかけがえのない存在であることに気づかせてくれます。他の人びとのそれぞれの固有の意味と価値を知り、互いに大切にしようとするまなざしは、自分だけのことを考えるのではなく、自分をこえた存在への気づきと言えます。
最後は、「社会に貢献するためのまなざし」です。自分を知り、他者を大切にすることは、学問的教養・知識に裏打ちされて、自ずとその対象を広げ、わたしたちの社会へ向かいます。「私」から「私・たち」へ世界はひろがっていくのです。広い知識と教養、深い専門的知識や技能は、隣人や社会への貢献に柔軟に対応することを可能にしてくれます。そのために必要なのは、社会に貢献するためのまなざしです。
豊かな人間性と広い視野によって、専門的な知識を備えた自立的人間として歩むための道をまっすぐ見ることができる「目」が開いていくのです。教育を通してひろがっていく、これらのまなざしは、どんな時代にあっても、普遍的真理を見失うことなく、神への信頼・希望を持って、正義と平和に満ちた社会を実現するための大切な力となるに違いありません。
ところで、カトリック教会の第二六六代教皇フランシスコをご存知でしょうか。今年の年末に来日されるとのことで、ニュースなどでもたびたび取り上げられましたので、ご存知のかたも多いのではないかと思います。日本ではあまり感じることは無いかもしれませんが、世界のおよそ三分の一がキリスト教徒であり、そのキリスト教徒の半分がカトリックであるということを知ると、本学の学生となられる皆さまが同じカトリック大学の学生として、このような動きも少し身近なこととして感じていただけるのではないでしょうか。
みなさんは大学生、短期大学生として、特にこの多文化社会になりつつある日本社会でこれから活躍するために、世の中の変化に敏感になり、現代世界において本当に大切にすべきことについて、確固たる信念を持って取り組んでいくことが求められていると思います。
みなさんたちにとって身近なツールかもしれませんが、この教皇フランシスコは、SNSを通してさまざまなことを発信していらっしゃいます。一千五百万のフォロワー数となっているとのことですから、世界中に影響力を持っていることが伺い知れます。イタリア語や英語だけではなく、日本語でもありますので、みなさんもぜひご覧いただければと思います。私はときおり教皇のSNSを見ているのですが、あるとき、このようなツィートをなさっていました。「快適すぎることには気をつけてください。快適に過ごしていると、他者のことを忘れがちです」。
皆さんに一つ、お願いがあります。これから、楽しい大学生活が始まると思います。私は、ぜひ皆さんにこの一度しかない大学生活を楽しく過ごして欲しいと願っています。しかし、それと同時に、ただただ「快適すぎる」生活に流されるのではなく、自分が今、学生として持っている固有の意味とミッションをしっかりと見つめながら、自分のためだけではなく、他者のために、社会のためにまなざしを向けることのできる学びをしていただきたいと願っています。自分の中に日々生まれては消えていく「何かのために、誰かのために」という自然な心の動きに素直に敏感になり、そのことについて真剣に考え、識別し、いのりとともに勇気を持って、他者のために、社会のために、実際の行動に移していただきたいと願っています。
先ほどの教皇フランシスコのことばに「愛はいつも、他者への献身です。愛はことばではなく、行いの中に見られるからです」ということばがあります。ここちのいい理想的なことばだけではなく、自分を、他者を、社会をきちんと見ることのできる「目」をもち、自分の「手」を、自分の「足」を使った行動ができるひとになっていただきたいと思います。それは、時に大変なことですし、もしかするとこの世の物差しで顕せば、価値がないように見える、ささやかなことかもしれません。しかし、それはまさに、家柄や学歴、地位、収入などの社会的な価値とは全く異なる、カトリックにおける私たち一人ひとりの真の存在価値であると思いますし、神さまの目にはとても尊く意味深いものとして映ると、私は思うからです。
最後になりますが、これから始まる清泉女学院大学、清泉女学院短期大学での皆さんの生活に、神さまの祝福がありますように。このことを心から願い、いのり、学長式辞とします。

2019年4月3日 学長 山内宏太朗

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