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2016年度入学式を挙行しました
2016年04月02日
4月2日、あたたかな春の日差しの中、清泉女学院大学・清泉女学院短期大学の入学式が挙行されました。
学長式辞
新入生のみなさん、入学おめでとうございます。
新入生のご家族、関係者のみなさまにも、心よりお祝いを申し上げます。
新入生のみなさんは、今日から短期大学、大学の学生となりました。学生とは、予め決められたものを学ぶ生徒と呼ばれる存在とは違い、何を学ぶべきかを主体的に考える存在です。そして、短大を含む大学という学びの場は、ただの職業教育の学校ではありません。かつて、ジョン・スチュアート・ミルが『大学教育について』で語ったように、大学は、生計を得るためのある特定の手段に人々を適応させるのに必要な知識を教えることを目的としているのではなく、大学の目的は、有能で教養ある人間を育成することなのです。
例えば、TVに写し出されたパリやブリュッセルでのテロの犠牲者とその家族の深い悲しみに共感を覚えるとき、TVに写し出されることのほとんどない、名前を聞いたことのない町や村で、空爆やテロの犠牲となっている人々とその家族の悲しみにも同じく心を寄せ、際限のない暴力の連鎖を断ち切り、世界が少しでも善くなるために、一体、自分に何ができるだろう、と考えるのが教養ある人間の態度です。
そうした真の教養を養うことを、本学では「こころを育てる」という言葉で表現しています。
「こころを育てる」のは大学ではなく、みなさん自身です。その育てるべき「こころ」には、思考力や情操だけでなく、沖縄のことば「ちむぐくる」が含む懐深い優しさや、psychologyの語源であるギリシャ語、プシュケが意味する生命の原理のようなものも含まれているでしょう。
「こころ」と対をなすことばは「かたち」です。かたちは目に見えますが、こころは目にみえません。「大切なものは、目に見えない」のです。「こころを育てる」には、まず、目にみえないものにこころを向けねばなりません。
本学図書館棟の外壁には SURSUM CORDAの文字が刻まれています。これは「こころを高くあげよう」という意味のラテン語です。高みを見るというのは、上昇志向のようなものを意味するのではありません。しっかり、大地を踏みしめて、人間を超えた存在へ、静かにこころを向けることを意味しています。そうすることで、目に見えない大切なものが、小さな子どもたちや、いつも目立たず片隅にいる人たち、立場の弱い人たちとともにあることが分かるはずです。
ラテン語の句が大事にされているのはこの大学がカトリックのミッションスクールだからです。満州事変後、日本でキリスト教弾圧が始まっていた時期に、はるばるヨーロッパからやって来たスペイン系女子修道会、聖心侍女修道会のシスター達は、戦争が激しくなると、野沢温泉村に強制疎開させられました。彼女たちが、戦後も、ここ長野の地に留まり、女性の教育に生涯を捧げる覚悟をされたことによって、長野の清泉は生まれたのです。
大学のミッションは、カトリックあるいはキリスト教徒の数を増やすことではありません。福音の精神の核心を伝えることです。
教皇フランシスコは、先月二十四日の聖木曜日、ローマ郊外の難民受け入れ施設で、シリア、パキスタン、マリ、ナイジェリア、エリトリアなどからやって来た、イスラム教徒、コプト・キリスト教徒、ヒンズー教徒など、女性を含む一二人の前に膝まずいて、彼らの足を洗いました。宗教が差別や排除のためのものではないことを、身をもって示されたのです。
大学で学ぶということは、与えられる知識をただ受け取ることではありません。書物に書かれていることや教師のいうことを鵜のみにせず、批判的に吟味し、自らの頭で考え、自分のためだけでなく、他者のために行動しなければ、真に学んだことにはなりません。大学や短大での学びは、一〇〇円を出せば、必ず一〇〇円の価値のものが手に入れられるといった等価交換のシステムではありません。これからの二年間、四年間で、何を受け取るかは、あなたがたひとりひとりの学びの姿勢によって決まるのです。
学びの場は決して教室やキャンパスの中だけにあるのではありません。様々な現場に足を運び、そこに生きる様々な人々と交わる体験が、あなた方をより深い学びへと誘うはずです。
不安なこともあるでしょうが、心配はいりません。校舎の壁面には、もうひとつのラテン語のことば、DOMINUS TECUM が刻まれています。アヴェマリアの祈りに出るこの言葉は、「主はあなたとともにおられる」という意味ですが、いまのところは、難しく考えず、「誰かがきっと見てくれている」と思えばよいのではないかと思います。どんな時であっても、あなたは決して、一人ぼっちの身捨てられた存在ではあり得ないということです。
今年度も、また、この佳き日に、清泉女学院大学・短期大学の先輩たちが大切にまもりつづけて来た、二つの句
SURSUM CORDA とDOMINUS TECUM を、新入生のみなさんに贈り、学長からの歓迎のことばの結びといたします。
二〇一六年四月二日
清泉女学院大学・短期大学 学長 芝山 豊
新入生にとって清泉女学院での大学生活が、実り豊なものでありますように、教職員一同バックアップしてゆきます。
ご入学おめでとうございます。